60代になって増えた困りごとを、思いつくまま挙げると、ばらばらに見えます。
浴槽から立てない。ふたが開かない。靴下がはけない。電球が替えられない。
ただ、救急搬送のデータを見ると、この年代の困りごとには順番があります。
数字の大きいところから並べました。いま困っていることが、どのくらい起きていることなのかが分かります。
先に|事故の8割は「ころぶ」、その9割は家の中
東京消防庁が、日常生活の事故で救急搬送された人のデータを公開しています。
令和6年中、交通事故を除く日常生活の事故で約16万3千人が救急搬送されました。そのうち6割以上が65歳以上です。
そして事故の中身を見ると、はっきり偏っていました。
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| 分かっていること | 数字 |
|---|---|
| 事故全体に占める「ころぶ」の割合 | 8割以上 |
| 「ころぶ」で救急搬送された高齢者(令和6年) | 73,500人 |
| そのうち入院が必要な中等症以上 | 約4割 |
| 「ころぶ」事故が住宅等で起きた件数 | 42,180人 |
| そのうち屋内で起きた件数 | 39,053人(9割以上) |
※東京消防庁「救急搬送データからみる高齢者の事故」2026年3月5日更新(2026年9月2日 閲覧)。東京消防庁管内=東京都のうち稲城市、島しょ地区を除く地域のデータです
外で転ぶより、家の中で転んでいます。
9割以上が屋内です。しかも4割が入院の必要な状態になっています。
気をつけて歩く、では届きません。家のほうを変える話になります。
なぜ、60代から増えるのか
同じ資料に、理由がひとことで書かれています。
加齢に伴い、様々な身体能力が低下します。挙げられているのは、心肺機能、筋力、視力・聴力、食べ物等を飲み込む力です。
この4つを、この記事のこれからの並びに当てはめると、こうなります。
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| 低下するもの | 起きること |
|---|---|
| 筋力 | 転ぶ、立ち上がれない、かがめない、ふたが開かない |
| 視力 | 段差やコードが見えない、手元が見えにくい |
| 聴力 | テレビの音が大きくなる、呼びかけに気づかない |
| 飲み込む力 | むせる、のどに詰まる |
| 心肺機能 | 階段で息が切れる |
どれも、あるとき急に起きるのではなく、少しずつ下がります。
だから本人は慣れてしまい、気づくのは家族や、事故が起きたあとになります。
数字を先に見ておくのは、そのためです。
東京消防庁が挙げている、事故を防ぐための具体策も並べておきます。
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| 防ぎたい事故 | 挙げられている対策 |
|---|---|
| ころぶ | 段差のある場所や階段、玄関には、手すりや滑り止めを設置する |
| ころぶ | 電源コードが通路にかからないよう、電気製品の配置を工夫する |
| ころぶ | 体力を増強して、つま先を上げてすり足を改善する |
| 落ちる | 滑り止めマットを敷く。脚立や踏み台では安定した足場を選ぶ |
| おぼれる | 飲酒後の入浴はやめる。熱い湯、長風呂は危険が増す |
| おぼれる | 脱衣所、浴室内の適切な温度調節を行う |
| ものがつまる | 食べる前に、お茶や汁物を飲んで喉を潤しておく |
| ものがつまる | 小さく切るなど食べやすい大きさにし、急いで飲み込まずゆっくり噛む |
お金のかからないものが半分以上あります。
コードの位置を変える、食べる前に汁物を飲む、風呂の前に脱衣所を暖める。
道具を買うのは、それでも足りないところだけで足ります。
家のどこで転んでいるのか|1位は寝室
住宅の中で「ころぶ」事故が起きた場所の上位5つです。順番が意外でした。
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| 順位 | 場所 | 救急搬送人員(令和6年) |
|---|---|---|
| 1位 | 居室・寝室 | 29,783人 |
| 2位 | 玄関・勝手口等 | 3,900人 |
| 3位 | 廊下・縁側・通路 | 2,653人 |
| 4位 | トイレ・洗面所 | 1,229人 |
| 5位 | 台所・調理場・ダイニング | 1,079人 |
1位が寝室で、2位以下を大きく引き離しています。
風呂でも階段でもなく、毎日いちばん長くいる部屋です。
危ない場所ではなく、慣れた場所で起きています。
なぜ寝室なのか。理由は3つ考えられます。
1つめは、いる時間がいちばん長いこと。転ぶ機会そのものが多くなります。
2つめは、夜に動くこと。トイレへ行くために暗い中を歩きます。目が慣れる前に立ち上がり、足元が見えないまま数歩進みます。
3つめは、床に物が多いこと。布団、コード、雑誌、スリッパ。玄関や廊下より、床に置いてあるものが多い部屋です。
この3つはどれも、注意力の話ではありません。時間帯と、物の置き場所の話です。
転ぶ場所を、順番に見ていく
- 家の中でつまずく|引っかかっているのは段差ではない4つの理由
1位の寝室と3位の廊下はここ - 部屋が暗くて手元が見えにくい|明るくするのは天井ではない
見えていないことが原因の場合 - 靴下がはけない・かがめない|無理にかがまないでください
片足立ちになる場面 - トイレで立ち上がれない|つかむ所より先に足を引く
4位のトイレ・洗面所 - 冬道で滑るのが怖い|濡れて見えて凍っている場所と歩き方の変え方
屋外はこちら
「落ちる」事故は、階段とベッドと脚立
「ころぶ」に次いで多いのが「落ちる」事故です。令和6年は8,719人が救急搬送され、4割以上が中等症以上でした。
約8割が住宅等で起きています。原因の上位5つです。
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| 順位 | 原因 | 救急搬送人員(令和6年) |
|---|---|---|
| 1位 | 階段 | 4,240人 |
| 2位 | ベッド | 976人 |
| 3位 | 椅子 | 328人 |
| 4位 | 脚立・踏み台・足場 | 324人 |
| 5位 | エスカレーター | 175人 |
4位に脚立・踏み台が入っています。
年に数回しか使わない道具です。それでも324人が搬送されています。
頻度ではなく、1回の危なさで見てください。
2位のベッドが目を引きます。976人が、寝ている場所から落ちて救急搬送されています。
階段や脚立のように「高い場所に上がる」場面ではありません。眠っているあいだ、あるいは起き上がるときです。
そして4位の脚立・踏み台は、多くの家で年に数回しか使いません。使う回数が少ないのに324人が搬送されているということは、1回あたりの危なさが高いということになります。
電球を替える、高い棚の物を取る。その数分のために脚立に乗るかどうかは、考え直す価値があります。
落ちる場面に、道具で対応する
- 高いところの電球が替えられない|その1回のために脚立に乗らない
4位の脚立・踏み台 - 椅子から立ち上がるのがきつい|足ではなく座面の高さかもしれない
3位の椅子 - 布団の上げ下ろしがきつい|上げているのは湿気のためだった
持ち上げる動作そのものを減らす - 買い物の荷物が重い|持ち方より先に運ばない物を決める
荷物を持って歩く場面
数は少ないが、重くなりやすい2つ
件数は多くないのに、入院が必要になる割合が突出して高い事故があります。
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| 事故 | 件数 | 中等症以上の割合 |
|---|---|---|
| おぼれる | 5年間で2,481人 | 毎年9割を超える |
| ものがつまる・誤って飲み込む | 令和6年で1,565人 | 5割以上 |
「おぼれる」は12月から3月に集中しています。冬の入浴です。
「ものがつまる等」の原因を見ると、特別な食べ物ではありませんでした。
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| 順位 | 原因 | 救急搬送人員(令和6年) |
|---|---|---|
| 1位 | 包み・袋 | 153人 |
| 2位 | 入れ歯 | 118人 |
| 3位 | 肉 | 63人 |
| 4位 | 薬剤等 | 57人 |
| 5位 | 餅 | 54人 |
2位が入れ歯です。
餅より多く、肉より多い。合わなくなった入れ歯は、食べにくさの話だけで終わりません。
ここは、放っておく期間が長いほど不利になります。
この2つに共通しているのは、起きたときに自力で対処できないことです。
浴槽の中で意識が遠のいても、周りに知らせる手段がありません。のどに詰まったときも、声が出せません。
だから件数が少なくても、入院にいたる割合がここまで高くなります。
逆に言えば、この2つは起きてからでは間に合いにくいぶん、事前にできることの価値が大きい場面でもあります。湯温を下げる、脱衣所を暖める、食べる前に汁物を飲む。どれも数十秒で済みます。
重くなりやすい場面に、先に手を打つ
- 浴槽から立ち上がれない|お湯を抜いてから立つと変わる
冬の入浴。国の注意も載せています - 脱衣所が寒いのは危険|温度を数字にする道具
暖まったかを数字で確かめる - 食事中にむせる|こわいのはむせることではない
「ものがつまる等」の入口 - 入れ歯が合わない|変わったのは入れ歯ではなく口のほう
窒息原因の2位
体の変化として現れるもの
事故には至らないけれど、60代で確かめておきたい変化があります。
共通しているのは、自分では気づきにくく、慣れてしまうことです。
見えにくさや聞こえにくさは、一気に落ちるわけではありません。少しずつ下がるので、下がった状態が普通になります。
そのため、本人ではなく周りが先に気づくことが多くなります。テレビの音、返事の遅れ、新聞を持つ距離。言われて初めて分かる、という順番です。
下のリンクは、どれも「自分では気づきにくいもの」を集めました。当てはまるものがあれば、そこから読んでください。
気づきにくい変化
- 老眼で手元が見えづらい|我慢するほど損する場面別の対策と道具選び
見えにくさは転倒にもつながります - テレビの音が大きいと言われる|集音器を買う前に確かめる4つ
言われて初めて気づく - 耳鳴りがする|迷っている日数が、そのまま減る
様子を見る期間が結果を左右します - 声がかすれる|2〜3週間続いたら原因を自分で決めない
期間で区切って考える - 記憶力が落ちた気がする|加齢の物忘れと相談すべき物忘れの違い
2つの見分け方 - 薬を飲んだか思い出せない|飲み忘れより危ないのは二重に飲むこと
飲んだ記録を残す - 階段で息が切れる|年齢のせいにしてはいけない6つのサイン
年齢のせいにできない場合 - 手足がしびれる|治まっても、安全の証拠にはならない
治まっても確かめる - 足のむくみが病気のサインになるとき|片足か両足かで見分ける
片足か両足かで分ける - 足の爪が厚い・色が濁る|見た目の問題ではないことがある
見た目だけの話ではない場合
痛みと、口の中
痛みは、我慢の量ではなく確かめる線で考えます。学会が受診の目安を出しているものがあります。
痛みと歯のこと
- 階段で膝が痛い|支えるより先に届く衝撃を減らす対策
日本整形外科学会の段階分けを載せました - 座ると腰が痛い|デスクワーク腰痛のNG姿勢と椅子まわりの対策4選
受診すべきサインも載せています - 指の関節が痛い・変形してきた|先に確かめるべき3つの特徴
変形が始まる前に - 歯茎が下がってきた|下がった歯茎は戻らない 進行を止める考え方
戻らないので、止める話
暮らしとお金の整理
この年代で、先送りにすると選択肢が減るものがあります。
体のことと違って、こちらは急に困る形では現れません。ただ、決めるのが遅くなるほど選べる幅が狭くなります。
お金は、必要額が分かってから動くまでに時間がかかります。免許は、返したあとの移動手段を用意してからでないと生活が止まります。終活は、判断できるうちにしか進められません。
どれも、いま困っていなくても読んでおく価値があるものです。
先に考えておくこと
- 老後のお金が不安|必要額を自分の数字にする4つの手順
平均ではなく自分の数字にする - 免許の返納を考える|返す返さないの二択にしない
二択にしないという考え方 - 終活は何から始めるか|物を捨てることから始めない
捨てることから始めない - 50代からの婚活を始める人へ|再婚で遺族年金が止まることがある
再婚には確かめることがあります - 体臭と加齢臭が気になる|においの出どころは体と服の2か所
体と服の2か所に分ける - 爪に縦すじが増えた|線の種類で、やることが変わる
線の種類で分かれます - カラートリートメントが1回で染まらない理由|レフィーネの使い方
染まらない理由
60代の事故について、よくある質問
高齢者の事故は、どこで起きることが多いのですか?
東京消防庁のデータでは、「ころぶ」事故が事故全体の8割以上を占めています。令和6年に住宅等で起きた「ころぶ」事故42,180人のうち、屋内での発生が39,053人で9割以上でした。場所の1位は居室・寝室(29,783人)で、2位以下を大きく引き離しています。
転んでも、たいしたことにはならないのでは?
東京消防庁のデータでは、「ころぶ」事故で救急搬送された高齢者のうち約4割が入院の必要がある中等症以上と診断されています。また、入院が必要とされる割合は年齢が高くなるにつれて増加するとされています。
いちばん危ない事故は何ですか?
件数ではなく重さで見ると、「おぼれる」事故です。5年間で2,481人が救急搬送され、入院の必要がある中等症以上が毎年9割を超えています。12月から3月に集中しています。次いで「ものがつまる等」の事故で、5割以上が中等症以上と診断されています。
のどに詰まるのは、餅がいちばん多いのですか?
東京消防庁の令和6年のデータでは、原因の1位は包み・袋(153人)、2位が入れ歯(118人)、3位が肉(63人)、4位が薬剤等(57人)、5位が餅(54人)でした。特別な食品ではなく、普段の食事の中でも事故は発生している、とされています。
まとめ|順番は、数字が決めている
60代で増える困りごとを、救急搬送の数字の順に並べました。
いちばん多いのは転ぶことで、その9割は家の中、いちばん多い場所は寝室でした。
そして重くなりやすいのは、冬の入浴と、のどに詰まることでした。
気をつけるのではなく、場所と道具のほうを変えるほうが確実です。上のリンクは、数字の大きい順に並べてあります。
